カーオーディオのヘッドユニットでデッキタイプといわれる物は、それ単体ではスピーカーを駆動せず、後段にパワーアンプを接続することで大音量を得ています。このシステムを積んだクルマで臨場感を謳歌した後、残念ながらクルマを乗り換える必要が出来てしまっても、なぜかヘッドユニットだけは手放すことができずに手元に残っていることが多いかと思います。個人で楽しむだけのシステムをつくろうと考えているのなら、これを活用しない手はありません。
デッキタイプですから、スピーカーが使えないのはわかっています。しかしヘッドホンならどうだろう、と思いついたことが、この実験を始めたきっかけです。
まず、電気的に音が出せる可能性があるのかを考えてみます。
手元には DENON DCT-900 があります。残念ながら取説が無いので、どのくらいの出力電圧があるのかわかりません。で、テストCDを使って調べてみました。
これによると、ボリュームを上げて行くにしたがって急激に電圧が上昇していくように見えますが、音の大きさはこのように急激に上昇したりしません。なぜなら、人間の耳は音の大小を対数のように圧縮して認識するからです。
そこでこのグラフの縦軸を対数でとるとこのようになります。
どうですか?
ボリュームつまみの回し方に比例しているようにみえてきます。
さすがDENON。
さて、出力電圧特性のグラフにもどります。
最大電圧は約9.3Vp-pと意外に大きな電圧が出ていることに驚きます。電源電圧は12Vとしましたので、たぶん内部の回路も12Vで動いていると思います。その状態で9Vp-p超えですから、回路の動作点やゲイン配分がうまく設定され、有効に電源電圧を利用しているように思います。
さすがDENON。
この測定結果は無負荷状態ですから、ヘッドホンを接続してもこれだけの電圧が出るわけではありません。それは出力インピーダンスが存在するからです。
そこで、同じDENON製であり、取説が公開されていてるDCT-R1のスペックを参考に見てみます。それによると、
出力電圧:3V/10kΩ
と書かれています。
電圧の単位には気を付けなければなりません。この3Vというのは実効値と解釈できますから、DCT-900の測定結果に合わせてP-P値に換算すると
P-P値(ピークtoピーク値)=3(実効値)×2√2
で、約8.5Vp-pとなります。
それと、スペック表には ~/10kΩが付いていますので、10kΩのインピーダンスを付けたときの値を示しているのでしょう。これらのことから、DCT-900の無負荷時出力最大値9.3Vも10kΩの負荷を付けることで8.5Vに下がるものと解釈しました(同じDENON製なので)。
これで出力インピーダンスが計算できます。
計算式は次の通りです。
Zo = (Vo/Vs - 1) Zs
Zo:出力インピーダンス
Vo:無負荷時出力電圧
Vs:負荷時出力電圧
Zs:負荷インピーダンス
この式に値を代入しますと、
Zo = (9.3/8.5 - 1) × 10×10^3
=941Ω
となりました。これが出力インピーダンスです。
さて、ここにインピーダンス16Ω程度のヘッドホンを直接つなぐと、無負荷では9.3Vも出ていた出力電圧は
9.3×16/(941 + 16) = 0.156
となってしまいます。
これはP-P値ですから、実効値に直すと55mV程度となり、ヘッドホンが16Ωであることから189μWの電力が現れます。
ヘッドホンの感度は1mWでたいてい100dB程度は期待できますから、189μWの電力だと93dB程度の音量になります。盆踊り音楽の音量くらいでしょうかね?
「あ、聞こえるじゃん」
と言ってはいけません。少し思い出してください。
この計算はボリュームが最大の時でした。しかもテストCDに入っている音量は0dBで、CD録音レベル最大です。音楽を聞くときには普通のCDをボリュームのツマミ半分程度で聞きたいと思いますので、これでは音量不足となりそうです。
で、DP32の登場です。
DP32は動作中の入力インピーダンスが2kΩ程度になります。すると、先ほどは0.156Vになってしまった出力電圧は、DP32を付けたことで6.3Vもの出力電圧を期待できます。
これは実効値で2.3V程になりますから、DP32は2.5mWもの電力を受け取ることになります。
なのでヘッドホンも104dB以上の音を出してくれるはずです。100dBでもガード下の爆音と言われていますから、ボリュームも相当絞れるはずです。
このような考察から、デッキタイプでも音が直接聞けるのではないか?という結論に至ったわけです。
で、やってみました。
もう、にっこりマーク全開です。
パワーアンプなしで十分聞けます。
ボリュームの位置も狙ったように(狙ってましたが・・・)1/2程度でした。
お気に入りのヘッドユニットとお気に入りのヘッドホンで作ったシステムにはオリジナリティがあり、実に愉快なものです。皆さんも一度試してみてはいかがでしょう。
尚、別のヘッドユニットで試した例ですが、実際の動作状態がYoutubeでご覧いただけますので、そちらもどうぞ。
ただし、実験は自己責任がお約束ですので、お忘れなく。
以上、ハードちゃんでした。